会長挨拶
「バイオメカニクスによる身体運動の価値創造」に向けて
日本バイオメカニクス学会 会長
伊坂忠夫(立命館大学スポーツ健康科学部)
日本バイオメカニクス学会(以下、JSB)の会則に記載された事業目的ならびにこれまでの学会活動とその成果を踏まえて、この数年間、理事会でJSBのミッション、ビジョン、アクションについて議論を重ね、会員に理解、共有する表現として次のようにとりまとめ、JSB2024(中京大学)の総会にてミッションとビジョンを報告しました。
- ミッション: バイオメカニクス研究の連携強化および人材育成を通じて、人間の身体運動に関わる知の探究・創造・活用を促進し、身体運動の価値を創造すること。
- ビジョン: インクルーシブかつ協働的な会員コミュニティの拡充・連携強化を図り、多様な人材の発掘・育成を通じて、人間の身体運動の可能性を広げる知が創発的に生み出される学会となる。
身体運動を生み出すには、骨と骨が関節を構成し、関節をまたいだ骨格筋が収縮することで関節を駆動することで動きが生じます。また、この骨格筋の収縮は、脳神経系により制御にされており、また関節、骨格筋は冗長自由度を持つため、個性的な動きができると同時に、複雑かつ精妙な運動を行うことができることも周知の通りです。このように、我々の身体は多様な動き、巧みな運動を実現でき、動きの多様性が担保されています。もちろん、年齢、体力、日常生活の状況によって個人内でも動きは変化し、トレーニングや練習を積むことで改善・向上させることが可能です。このように、身体運動を研究、追求すること自身が、楽しさ、面白さ、喜び、深みを研究者にもたらしてくれています。
同時に、身体運動に関わる深い理解は、身体運動の改善や指導に貢献するのはいうまでもありません。さらには、新しい動作・運動やトレーニングの創造ならびに道具・用具・装具の開発にもつながります。このことは、スポーツ分野、教育分野にとどまらず、医療・リハビリ分野、工学分野、デザイン分野など、他の領域へも波及しており、JSBの研究成果が隣接分野、異分野でも大いに活用され、実装されています。
近年のテクノロジーの進展に目を向けますと、その社会への浸透速度はめまぐるしく、計測、解析技術の急速な発展ならびにAI(人工知能)の発達進化により、ビッグデータの活用、即時性、高精度解析、リアルタイム・シミュレーション、デジタル・ツインなどの各分野での活用があげられます。これらのテクノロジーの活用により身体運動の解明が、今後より一層進んでいくことは容易に想像できます。このような時代の中で、おかれたそれぞれの身体状態に関わらず、自由に活動できるための身体運動の探究・創造・活用を対象とした研究がJSBとして活発に展開されることを願っております。
そのためにも、研究対象、トピックス、年齢、所属などに関わらず、身体運動の価値創造にむけて、多様な研究者が自由闊達な研究成果を持ち寄り、研究者同士が集い、交流することで、新たな価値が生み出され、その価値が社会に活用、実装、貢献することにつながることを心から願っています。
会員のみなさんとともに、JSBが今まで以上に活発な研究プラットフォームとなるように発展させて参りましょう!
2025年4月1日